やきもの研究室

泉山陶石から採取したロウハを使用した青磁の研究 

要旨

 泉山陶石から採取したロウハを使用し泉山陶石にこだわった独自の青磁作品を制作することを目的として以下の焼成実験を行った。

  • 鉄分を泉山陶石から採取したロウハを使用した青磁釉の作製
  • ロウハを市販のベンガラと泉山陶石で調合し合成した物を使用した青磁釉の作製
  • 市販のベンガラ単味を使用した青磁釉の作製

以上三種の青磁釉を作製して素地は泉山陶石を使用したテストピースで基礎釉は泉山陶石に合成ワラ成、合成イス灰を調合した青磁釉を作製し、釉掛けした後ガス窯を用いて1200℃まで18時間かけて焼成した。その後3種の比較研究を行った。

1. はじめに

 佐賀県西松浦郡有田町に産する泉山陶石は、1616年に朝鮮の陶工李三平などによって発見され、我が国最初の磁器が焼成されたとされている。今年で有田焼創業400年を迎える。

泉山陶石は、約210万年前、流紋岩が熱水変質した岩石とある注1)。

その陶石に含まれるロウハ(緑礬)の研究は柿右衛門様式磁器の再現研究で行い論文として発表した注2)注3)。

今回の研究は、その泉山陶石から採取したロウハで泉山陶石にこだわった独自の青磁作品(元来我が国の青磁は鍋島藩窯の創始窯である岩谷川内と柿右衛門が始まりとある注4))。の制作を試みることが目的である。

ここで言うロウハとは硫化鉄のことである。化学式を以下に示す。

硫化鉄の酸化による硫酸の生成注5)  

2FeS₂+2H₂O+7O₂→2FeSO₄+2H₂SO₄(硫酸)

4FeSO₄+2H₂SO₄+O₂→2Fe₂(SO₄)₃(硫酸第二鉄)+2H₂O 

       

FeSO₄・7H₂O(硫酸第一鉄)を650℃で焼成することによりFe₂O₃が生成される。

ロウハの熱分解過程注2)

FeSO₄・7H₂O→FeSO₄・H₂O+6H₂O

FeSO₄・H₂O→FeSO₄+H₂O

2FeSO₄→Fe₂O₃+SO₂+SO₃

表1 泉山陶石とロウハの化学分析値(重量%)



2. 実験方法

  1. 泉山磁石場より採取したロウハ(図2)を電気窯を使用して650℃で焼成し(図3)その後小型スタンパー(図4)にて粉末状に粉砕。それを基礎釉に5%添加して青磁釉を調合し泉山陶石で作製したテストピースに釉掛けを行いガス窯にて1200℃まで18時間をかけ焼成した。
  2. 泉山陶石と市販のベンガラを8対2の割合で配合し湿式粉砕の後、乾燥させ粉末にし、その後素焼きした合成ロウハ(図5)を作製。その合成したロウハを基礎釉に5%添加して青磁釉を調合し泉山陶石で作製したテストピースに釉掛けを行いガス窯にて1200℃まで18時間をかけ焼成した。
  3. 基礎釉に市販のベンガラを0.8%添加して青磁釉を調合し泉山陶石で作製したテストピースに釉掛けを行いガス窯にて1200℃まで18時間をかけ焼成した。
  4. 青磁釉の基礎釉の作製法

泉山陶石(仮焼)、合成ワラ灰、合成イス灰を使用し三角座標(図7)を用いて調合して求めた結果を以下に示す。(泉山陶石は粘性を少なくするために仮焼して使用した)

ゼーゲル式 注6)

0.07KNaO

0.74CaO  0.26Al₂O₃ 2.49SiO₂ 0.19MgO 

図4 小型スタンパー
図7 三角座標による基礎釉の調合



3. まとめ

 表2のように三種には、はっきりした違いは認められなかった。

しかし、今回の目的である淡い澄み切った青色の美しい青磁(泉山青磁と命名)ができる確信を得た。

近年、泉山磁石場は立ち入りを制限されているので、将来泉山ロウハが手に入りにくい場合も考慮して合成ロウハを作成しテストしてみた。その結果、天然のロウハとの顕著な違いは見られなかった。

表2のように三種には、はっきりした違いは認められなかった。

しかし、今回の目的である淡い澄み切った青色の美しい青磁(泉山青磁と命名)ができる確信を得た。

近年、泉山磁石場は立ち入りを制限されているので、将来泉山ロウハが手に入りにくい場合も考慮して合成ロウハを作成しテストしてみた。その結果、天然のロウハとの顕著な違いは見られなかった。

  1. 武内浩一「泉山陶石の地質学的位置づけと、窯業原料としての特徴 」長崎県窯 業技術センター 2015年
  2. 朴泰成・小林繁夫・古賀道生・梶原茂正・津留壽昭「有田泉山ロウハと合成ベンガラによる赤絵具の試作」九州産業大学柿右衛門陶芸研究センター論集第2号 2006年 238頁
  3. 梶原茂正・日高正則・L.S.R.Kumara・古賀道生・津留壽昭・下村耕史・N.E.Sung「柿右衛門様式磁器の赤色絵具の再現研究」九州産業大学柿右衛門陶芸研究センター論集第3号 2007年 59頁
  4. 鍋島藩窯調査委員会 「鍋島藩窯の研究」  1954年 117頁
  5. 原料試験報告 「佐賀県窯業試験場」 1969年 3頁
  6. 釉薬調合支援ソフト「釉薬工房」あい工房株式会社

  

参考文献

  1. 窯業協会編 「窯業工学ハンドブック」 技報堂 1965年
  2. 加藤悦三「釉薬調合の基本」窯技社 1970年
  3. 鈴田由紀夫 「伊万里青磁」 古伊万里刊行会 1991年
  4. 窯業協会編 「セラミック工学ハンドブック」 技報堂 1993年

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    最新の質問と回答
    2022.08.16 質 問
    T.H  さん
    現在磁器の主流となっている天草陶石ではなく泉山陶石によるテストとのことですが、天草陶石との違いを簡単にご教授願えませんでしょうか? よろしくお願いいたします。
    2022.08.18 回 答

    簡単には難しいですが、天草陶石は磁器の特徴を全て兼ね備えた最高の陶石です。しかも単味で磁器土になりかつ成形しやすいです。それに比べて、泉山陶石は可塑性が格段に劣ります。その上硫黄など硫化物が多く白さに支障をきたします。一番の問題は、作品、製品の歩留まりが悪いです。1616年に発見された日本最初の磁器とされています。でも近年の発掘調査等から、それ以前に有田の西の方の窯場から初期の磁器が発掘され驚くことに泉山の陶石ではなさそうだと、分析結果が最近佐賀大学の方で発表されました。有田出身としては泉山陶石に関心を持ち如何にかして復活したい想いから研究しています。また通説では有田で天草陶石の導入は明治以降とされていたのですが、有田でも明治以前幕末頃密かに使用されていた形跡があるそうです。このように、我々陶芸に携わる者にとって有田は原料の宝庫で、研究を続ける楽しみがあります。是非機会があれば直に訪問してみて下さい。また有田と天草は関係があり井伊直弼が暗殺されなかったら佐賀藩が管轄してたかもとの噂があります。当時天草は天領で幕府の下にあり、井伊直弼とは縁戚関係にあった佐賀藩の天草の天領預かりが泡と消えたらしい。